ヤフオクで買った中古の650Bホイールが意外とよく進みます。それまで使っていた700Cのデフォルトホイールと重量は変わりませんが(どちらも1,900gと重い)、タイヤは前後合わせて650gも重くなっているにもかかわらず、です。
ゼロスタートの漕ぎ出しは小径効果で重量増を相殺できたとしても、足を止めた際の「滑走」は大径の700Cの方が慣性が効いているはず。しかし、体感的には太くて重い650Bの方がよく進むように感じるんですよねえ。
それはそれで良いことなんですけど、これまでボンヤリと理解していたセオリーと合わない気もします。というわけで。今さらですがホイールとタイヤの「転がり抵抗」について調べ直してみました。
【比較ホイール&タイヤのスペック】
ホイールサイズ | 650B | 700C |
リム | アンブロッソ アルミ | WTB アルミ |
スポークタイプ | スチール2mm 丸スポーク | スチール2mm 丸スポーク |
スポーク数 | 32H | 28H |
ハブ | シマノ 105 | キャノンデール デフォルト |
タイヤ | WTB セミノブ | グラベルキング スリック |
タイヤ幅 | 47mm | 40mm |
チューブレス | TLR | TLR |
ホイール重量(前後) | 1、927g | 1,922g |
タイヤ重量(前後) | 1,102g | 646g |
合計重量(前後) | 3,029g | 2,568g |
今回フォーカスしたのは滑走時の進み方ですから、赤信号で止まる時なんかを想像してください。バイクに体重はかかっているけど、クランクは無負荷の状態。700C×40mmのスリックタイヤより650B×47mmのセミノブタイヤの方が失速しにくく感じるのは、ただの気のせいなのでしょうか?
2つのホイールの相違点
2つのホイール&タイヤを比較して、大きく異なるポイントは4つ。
ホイールサイズ | 650B | 700C |
①直径 | 584mm | 622mm |
②タイヤ重量(前後平均) | 551g | 323g |
③タイヤ幅 | 47mm | 40mm |
④ハブ | シマノ 105 | キャノンデール デフォルト |
厳密にはリムのブランドやスポーク本数も違いますが、リムの材質と幅は同じだし、スポークも材質と太さが同じ。違いはきっと誤差の範囲内でしょう。もちろん、バイクと乗っている人間も同じです。なので、大きな4つの違いを深掘りできれば、滑走時のフィーリングを客観的に説明できるのでは?と考えました。
①サイズ×②タイヤ重量で慣性モーメントを比較
慣性モーメントとは「ものの回転のしにくさの度合い」。逆に言えば「回転の止まりにくさ」になるので、滑走時の効率を定量的に捉えるには良い指標のはず。タイヤの場合は重量と半径から公式で導けるようです。
本気で数値化するならホイールとタイヤを分けて考えたりするみたいですが、今回は違いがざっくりと分かればOK。なのでタイヤの平均重量だけで算出しています。ホイールの半径は便宜的にエトルト規格のホイール直径の半分にタイヤ幅(≒高さ)を足した数値としました。
慣性モーメント(J)
=1/2×重量(kg)×半径(m)の二乗
組合せ | 慣性モーメント(J) | タイヤ重量(kg) | 半径(m) |
650B×47mm | 0.03 J | 0.55 kg | 0.34 m |
700C×40mm | 0.02 J | 0.32 kg | 0.35 m |
ロードプラスの方が小径ですが、タイヤが重いぶん慣性モーメントは700Cを上回る結果に。つまりは「漕ぎ出しは重いが止まりにくい」と言えます。その時点で650Bホイールの漕ぎ出しを軽く感じる吉尾の体感自体が怪しくなってきますが、慣性って絶対値が小さいんですね。
自転車の抵抗を語る場合は「W(ワット)」という単位を使うのが一般的。慣性モーメントのJ(ジュール)とWの換算は、たぶん、1J=1W ×1秒。物理が苦手な吉尾ですが、今回のケースは単純に1J=1Wと捉えても差し支えなさそう(間違っていたらごめんなさい)。
確かに650Bホイールの方が慣性が効いていますがそのインパクトは微細なもの。本当に「漕ぎ出しやすく止まりにくい」のだとしたら、別の理由を探った方が良い気がしてきました。
③タイヤ幅による転がり抵抗の違い
次の相違点はタイヤ幅です。ロードバイクの世界では「23Cよりも25Cの方が転がる」というのが定説になっています。つまり、条件が同じなら幅広タイヤの方が転がり抵抗が少ない、とされています。
そもそも「転がり抵抗」とは、
①タイヤの変形によるエネルギー損失
② タイヤトレッドと路面との摩擦によるエネルギー損失
③タイヤの回転にともなう空気抵抗によるエネルギー損失
の3要素に分けられますが、なかでも①のタイヤの変形によるエネルギー損失が転がり抵抗全体の約9割を占める主因なのだそうです。
走行中のタイヤは変形と元の形状に戻ることを繰り返す際、熱としてエネルギーを損失します。同種のタイヤを同じ空気圧に設定した場合、太タイヤと細タイヤの接触面積(変形量)は同じですが、カタチの違いが転がり抵抗の差につながるのだとか。その形状は幅の狭い細タイヤの方が前後に長くなるわけで、それが太タイヤに比べるとマイナスに働いてしまうというのが定説です。
今回はタイヤ自体が別物ですし、空気圧も違いますからその理屈は当てはまりません。そこで、それぞれのタイヤで設定した空気圧をポイントしてみました。あくまで想定値ですが、下グラフの赤マークのところを比べると47mmタイヤの方が4Wほど転がりにくいことになります。慣性モーメントの僅かな差など、への突っ張りにもなりませんね。
インピーダンス説が最も胸落ち、だが
かなり旗色が悪くなってきたロードプラス規格。それでも何かあるはずだと調べてみると、インピーダンスという言葉に行き当たりました。なんでも電気回路では普通に使われる用語らしいのですが、そちらの方はウィキを読んでもド文系の吉尾にはさっぱり_| ̄|○
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/インピーダンス
自転車タイヤのインピーダンスは「空気圧を上げすぎるとタイヤが跳ねて、そのぶん前進するパワーをロスする」つまり、乗り心地が良い方がロスが少ない、ということ。それならばわかります。むしろ、今回のホイール交換で最も体感したポイントです。
上のグラフは、青い線がテスターで測ったいわば理論値。それに対して実走の抵抗を示しているのが他の3線です。赤が荒れた路面、緑が綺麗な路面、黄色がその中間の路面を同じタイヤで実際に走って、空気圧と抵抗の関係をプロットしています。黄色や緑は空気圧を上げるとセオリーどおり抵抗が下がっていきますが、あるところから逆に増え始めますよね?雑に言えば、そこがタイヤが跳ね出す臨界点。
今回の吉尾のケースでは、空気圧高めの40mmタイヤはインピーダンスのロスがあり、フワフワの47mmタイヤは路面の凹凸をしっかり吸収してくれるので滑走でも失速しにくい、という仮説が立ちます。
インピーダンスロスについてはこちらの記事がわかりやすかったです↓
④ハブの性能も気持ち的には感じたい
最後の比較はホイールのハブ。650Bの手組みホイールはシマノの105、700Cはメーカー不明のシールドベアリングタイプ。なんとなく105の方がスムースに回っているような気もします。「ノーブランドのシールドベアリングよりもシマノのカップ&コーンの方が優秀!」なんて書けると良かったのですが、ハブの抵抗なんて数値的には大したことがないそうで……。
実際、ロードバイクの時に使っていたシールドベアリングのホイールは、シマノホイールよりもめちゃくちゃ進みましたし。まさに滑走で。このあたりは残念ながらプラシーボなのかもしれません。
まとめ
ホイール&タイヤの世界は深過ぎるので、体感で楽しめればヨシ!
650Bの滑走がよく進むように感じる理由について、これまでの各論をまとめてみると。
1. 慣性モーメントはプラスに働いているようだがその影響は極小
2.タイヤの変形による転がり抵抗はマイナス影響
3.インピーダンスはプラス
4.ハブの効果もプラスっぽいがその影響は極小
となります。3のインピーダンスロスを根拠に一応は「650B×47mmの方が転がるケースもありえる」ことがわかりました。でも、よくよく考えてみると、単純に「40mmタイヤの空気圧が高すぎただけ」という見方もあるな、と。
もう少し落としていたらインピーダンスロスは発生せず、47mmとの違いなんて感じなかったのかもしれません。ホイールやタイヤを何にするか?と同じくらい、空気圧の設定って大切なんですね、やっぱり。
今回の考察は、なんの気無しにひょいと足元を覗いてみたら、そこには深く濃い闇が広がっていた感じ。ホイールとタイヤと空気圧の世界には調べれば調べるほどこんがらがっていく、まさにカオス。吉尾程度の知識と経験では難しいことを考え過ぎても正解にはたどり着けそうにありません。むしろ、ハナから感覚で判断しちゃった方が幸せになれる気がしました。
タイヤだけでもこのボリューム感。実に深い↓
「自転車用タイヤのいろは」の後編、本日公開しました…!
前編とあわせてお楽しみください☺️https://t.co/mLK96WOTKc#タイヤ記事まだまだ続きます https://t.co/if9rYe1aGx
— ラルート (@laroutejapan) June 14, 2022
吉尾エイチでした。m(_ _)m
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