3つのステップで油圧ディスクブレーキの引きずりを一旦は止めたものの再発。ショップに持ち込んで直してもらった時のやり方が目からウロコでしたので、過去記事に後日談を加筆しました。
軽いタッチでリムブレーキと同等のストッピングパワーを発揮する油圧ディスクブレーキ。ロードバイクに採用され始めた頃は賛否両論ありましたが、今ではすっかり定着した感があります。特に、太いタイヤを装着するグラベルバイクはホイールの幅も広くなるため、リムブレーキ仕様を見かけることはまずありません。
吉尾のトップストーンも例にもれずシマノの油圧ディスクブレーキを装備。その引きの軽さにすっかり慣れきってしまい、もうリムブレーキには戻れない気すらしています。
油圧ディスクブレーキは音鳴りしやすい
MTBから広がった油圧ディスクブレーキは、なんとなくヘビーデューティなイメージがあるけれど、実際使い続けてみると意外にナーバスで調整に手間がかかる一面もあります。なぜかといえば、ディスクローターとパッドのクリアランスが非常にタイトだから。その間なんと0.2~0.4mm!リムブレーキのそれは1.5mm~2mmですから、実に10分の1のスペースの中でセッティングを決めなくてはなりません。
で。何が起こるかというと、ネットで検索するといくらでも出てくる「音鳴り」です。ディスクブレーキの異音にはブレーキをかけていない時の「シャンシャン」系と、ブレーキを握った際の「ブォーン」系に分類されます。吉尾が体験したのは前者。フロントもリヤも一度ずつ洗礼を受けました。というわけで今回は、シャンシャン鳴り出した油圧ディスクブレーキのトラブルシューティングをまとめてみました。
突然始まるシャンシャン音の原因は?
ホイールが回っている間じゅう鳴り続ける擦過音の正体は、もちろんローターとパッドの擦れです。それはわかるんですけど、特にぶつけたりしたわけでもないのに、ある日突然鳴りだす理由がわかりません。
ネットで調べた限りでは、鳴り出してからの対処法はいくらでも見つかる一方、鳴り出さないようにする予防策にはたどりつけないんですよねえ。技術的に熟成を重ねきったリムブレーキに比べたら、自転車用の油圧ディスクブレーキは普及してきたとはいえ、まだまだ過渡期にあるのかもしれません。
まあ、0.2mmといえば一般的な名刺の厚みしかないわけで、そりゃちょっとしたことでもブレますわな、ふつう。いろいろ考えるよりも「今のディスクブレーキはそういうものだ」と割り切って、リカバリーのノウハウを身につける努力をした方が良いみたい、です。
クリアランス調整におけるひとつの前提と3つの方策
そして本題。吉尾が音鳴りを止めた方法です。といっても、ネットで語られていることをひとつひとつ試していっただけなんですけどね。ただ、原因というか音鳴りに至る経緯によって、ステップの踏み方を入れ替えてみると、試行錯誤の回り道をショートカットできるかもしれません。
前提
スルーアスクルの締め付けトルクは一定に
ブレーキの音鳴り対応といえば、キャリパー本体やディスクローターに手をつけたくなりますが、その前にチェックをおすすめしたいのがスルーアスクル。なぜなら、締め付けトルクの強弱でローターの位置が微妙にズレることがあるからです。そのままブレーキのクリアランスを調整しても、スルーアスクル自体の締め込み具合が変われば、その度に音鳴りを繰り返す悪循環になりかねません。
↑スルーアスクルの締め付け具合がディスクブレーキの音鳴りにつながることも
なので、吉尾はスルーアスクルの締め付けトルクを規定内の一定値に決めておくようにしています。そうすれば、理屈上はローターの位置も一定になるわけで、メンテナンス作業の手戻りは少なくなるはず。特にタイヤ交換や輪行などホイールのつけ外しをきっかけにブレーキがシャンシャン鳴り始めた場合は要チェックです。
↑素人が素手でトルクをキメるのは至難のワザ。トルクレンチをおすすめします!
クリアランス調整の3ステップ
①ブレーキ本体のセンタリング
シャンシャン音はキャリパー本体のわずかなズレで発生することがほとんど。クラッシュしたわけでもないのにズレでしまう理由はわかりませんが、今の油圧ディスクブレーキには「そういうことが起こるもの」だと割り切って対処療法のスキルをあげましょう。
やり方はキャリパーの取付けボルトを緩めて手でカタカタ動かせる状態にしたら、センタリングツールをインサート。ブレーキレバーを握ってセンタリングツールごとピストンで挟みます。そのまま取り付けボルトを規定値まで締め込んで完成です。
↑トップストーンのリヤ周りはタイトなので首の短いスタビタイプが必須
ただし、取付けボルトの締め込みにはちょっぴりコツが必要。片方のボルトだけを一気締めるとその勢いでキャリパーがズレてしまいますから、左右均等に少しずつ回していくようにしましょう。最初はうまくいかないかもですが、2〜3回も繰り返せば良い塩梅がわかってきます。
②飛び出たピストンを押し込む
油圧ディスクブレーキは充填されている液体(ブレーキフルード)にレバーから圧力がかかるとキャリパー内のピストンが押し出されてパッドをローターに押しつけるしくみ。通常はレバーを離してフルードの圧が抜けるとピストンも元の位置まで戻るわけですが、それがうまく働かなくなる時があるそうなんですね。つまりパッドとローターが擦れたままなので音が鳴る、という流れ。
そんな時はヘラ状の工具でピストンを押し込んであげればOK。タイヤレバーでも代用できるそうですが、思った以上にチカラのいる作業ですから吉尾は念のため専用工具を愛用しています。
③ローターの曲がりを調整
ステップ②でも異音が解消できない場合はローター自体の変形を確認しましょう。といっても、0.2mmの曲がりを目視で突き止めることは難しいので、ローターの調整は何かにぶつけたとか明らかに心当たりがある時だけにしておいた方が無難です。
↑携帯できるローターツールなら出先でも安心
たいがいのハウツーは①から順に解説されていますが、ぶつけたりした覚えがなければいきなり②からチェックしてみるのもおすすめ。ピストンが突き出していると、何度①の調整を繰り返してみても音鳴りが止まらないことがあるからです。
異音の放置は事故のもと
シャンシャン音はブレーキパッドがローターに接触しているサインです。触れているということは、パッドもローターも常に削られているということ。油圧ディスクブレーキはパッドが減ってもローターとのクリアランスを一定に保つ構造になっていますから、そのまま放置しておくと片側のピストンだけがどんどん突き出てくることになります。最悪、パッドの交換だけでは済まない事態にまで陥る可能性もあるわけです。
第一、そんなコンディションではせっかくの油圧ディスクブレーキも実力を発揮できません。万が一、下り坂で止まれなくなったら……想像するだけで頭の中が真っ白です。ブレーキは自分と他人の命を預ける最も大切なパーツ。念には念を入れてメンテを続けていきましょう!
実は目視が1番確実だった!
ここからが後日談。3つのステップで一旦は収まった油圧ディスクブレーキでしたがわずか2週間で再発。「ひょっとしてキャリパー自体が壊れてしまったとか?」最悪の事態を覚悟しながらショップに持ち込んでみました。結局、10分くらいちょいちょいといじってもらっただけで直ってしまいましたが、そのいじり方がまさに目からウロコ。
なにか特別な器具が出てくるものとばかり思っていましたがなんと調整は目視のみ。プロは自分の目でパッドとディスクのスキマを見ながらセンタリングしちゃうんです!なんでも、油圧ディスクブレーキの状態は千差万別で、もともとの個体差やオーナーの乗り方によってそれぞれ違うのだそうです。なので、市販のツールを使っただけでは直らないことも少なくないのだとか。
吉尾のケースがまさにそうなのですが、それにしても油圧ディスクブレーキ って思っていたよりアナログなシロモノなのですね。じゃあ、「あの三種の神器的な専用ツールの立場は?と」言いたくなるけれど、今回は使わなかっただけで、ツールがないとできない作業も実際ありますからね。ディスクブレーキ車に乗るなら揃えておく意味はあると思います。
その後、別のホイールに換装する際に自分でも目視調整をやってみました。確かに慣れてしまえばこの方が手っ取り早いです。ちなみにセンタリングツールは目視調整の後、ピストンの当たりを微調整するのに使うとうまくいきました。やはり、真実は現場にあり!ネットの知識だけでは限界がありますね。
吉尾エイチでした。m(_ _)m
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